シャッターを開けてもいいですか?

これは埼玉県さいたま市、志木市、川越市、そして千葉県柏市にある50箇所の店舗の2年間の記録である。最初の緊急事態宣言下(2020年4月〜5月)、それが明けたあと(2020年6月〜12月)、2度目の緊急事態宣言下(2021年1月〜3月)、そしてまん延防止等重点措置(2021年4月)、3度目の緊急事態宣言下(2021年3月〜6月)、2度目のまん延防止等重点措置(2022年1月〜3月)の期間。それぞれ6枚ずつ計300枚の写真映像で構成される。
「要請通り店を閉めていたけど、協力金をもらったから生活は困らなかったね。うちくらいの規模だと開けてるより閉めてて協力金もらう方が効率がいいんだよ、経費がかからないからね。でも、開いてるのと閉まってるのだとお客からの信用が全然違う。それが難しいところだよね。あそこはいつ行っても閉まってると思われるのが嫌だった。それでも時短要請の時だって私は店に残ってるお客をちゃんと帰らせた。酔っ払ってるお得意さんほど大丈夫だからもう少し開けてろとか言うんだけどね。やっぱり罪悪感が出てしまうからね。神様は見てるんだよ。」一度目の緊急事態宣言が明けてすぐの頃、小料理屋の店主は話してくれた。
最初の緊急事態宣言中、当時の自宅から歩いて行ける場所と、どうしても仕事で行かなくてはいけなかった場所に絞って閉じたシャッターの写真を撮り続けた。すべて埼玉県と千葉県内である。普段から目にしていたはずのお店なのに、シャッターが開いている光景を思い出せないということがしばしばあった。一口にシャッターと言っても様々な色やデザインがあることに改めて気づかされた。ほとんどの場合、閉じたシャッターには店主や経営者からのお知らせのビラが貼られていた。床屋や眼鏡店など、生活必需品の店舗でもシャッターを下ろしていたことに驚かされる。
これはランドスケープや定点観測に似たポートレート写真だと思っている。もう2年以上シャッターを閉じて営業再開がいまだに未定のところもあれば、途中で閉店してしまいまったく別の新しい店舗になったところもある。
先ほどの小料理屋の店主の言葉はひとつの例でしかない。店の規模や従業員数、そもそも何のお店なのかによってシャッターを閉めていることの意味合いは全然変わってくるはずである。辛さだって十店十色だろう。シャッターという本来は内と外を隔てるはずのものが、今は内にいる人と外にいる人を繋ぐ媒体のように思える。

スライドショー 10分25秒

会期:2023年2月24日(金)〜3月5日(日)
会場:ギャラリーヨクト